第4章
第4話
夫の知らないレズ友との逢瀬

琴美『明けましておめでとう!ってもう遅いか・・・。
お元気でしたか?SAKURA通信見た?来週「昼間の情事」開催ですって!』

琴美さんから短文のショートメールが届きました。
SAKURA通信というのは、SAKURAさんから配信されるパーティ開催情報が記載されたメールニュースのことです。
あいにく夫の携帯メールには届きますが私はそれを見ることはありませんでした。

「あけましておめでとうございます。
ごめんなさい。SAKURA通信は夫に届くので私見れないのです。」

琴美『あ、そっか。えっとね。来週木曜日の昼1時〜6時空いてる?』

「う〜ん。延長保育頼めば・・・。」

琴美『やった!頼んで頼んで!保育料割り勘でいいから!ずっとこの日を待ってたんだから!』

「あはは・・・わかりました。」

琴美『じゃあ予約しておくね。昼からランチでもしてそれから行こうよ!』

「あは。了解しました。」

琴美『じゃあ、楽しみにしてるね!それでは来週前日にメールしま〜す。』

何で了解してしまったのか、自分のことなのに、自分を理解できないでいました。
このところ夫とは毎晩のように夜の生活も励んでいました。
ほんの半年前まで7年もの間、セックスレスだった夫婦がです。
私はとっても満たされている筈なのです。実際、満たされてるというかすごく幸せでした。
それに、SAKURAさんで定期的に夫では得られない部分への刺激を味わうこともできているのです。
なんの不満もない筈なのです。
でも、実際、琴美さんからショートメールを頂いた時、ドキドキっとときめいたのです。
瞬間的に琴美さんと交わした濃厚なキスが脳裏をかすめたのです。
多分、あの濃厚なキス、夫のキスとは違う、濃厚で優しいキスが欲しかったんです。

実はあれ以来、SAKURAさんでは完全にキスをNGにしました。
やっぱり夫は、女性同士でもキスは厳しいみたいなのです。
私も夫の気持ちが一番なので、キスNGは、もっともだと思い従っています。
でも、やっぱり物足りないのです。あの濃厚なキスが忘れられないのです。
女性のあの優しい唇が欲しくてたまらないのです。
もちろん男性の荒々しい唇も実は忘れられません。
でも、それは贅沢というものですし、夫への完全な裏切りになってしまう気がします。
折角、こんなに夫と良好な関係を築けたのに絶対に壊したくないのです。
雁太さんと交わしたあのキスはもう封印しなきゃいけないのです。

でも女同士なら・・・もし夫にバレても裏切りにはならないかもしれない・・・
そんな都合のいい話はあり得ないのかもですが、少なくとも恋愛感情は全くないのです。
もちろん昼間SAKURAさんに行けば、カップル男性もいらっしゃるでしょう。
でも、先日、琴美さんが言っていたように、真正のレズビアンだと言えば男性と絡む必要はないのです。
今まで身体を重ねてしまったカップルさんがいらしたら、今度、夫と参加した時にとお断りもできます。
何より、琴美さんとの淫らな行為を殿方に見て貰えるんです。
夫がいなければ気持ちが解放されて、より快楽を貪ることができるように思うのです。

実は、先日SAKURAさんに夫とお伺いした際に、夫に内緒でマスターに確認したことがります。
もし一人で参加したら、夫に内緒にして貰えるのか、恥ずかしくて心臓が飛び出そうでしたがお聞きしたのです。
マスターは、にこやかに笑いながらお答え下さいました。

マスター『あは。当然ですよ。人それぞれ例えそれが親兄弟でも知られたくないことがあるものですよ。
SAKURAは、会員の皆様のプライバシーはどんなことがあってもお守りします。ご安心下さい。
ご参加頂いている皆さんにも直美さんではなくて別人だと理解してもらいますので大丈夫です。
別のハンドル名を考えておいてくださいね。』

マスターはにこやかに答えながら、しっかりと私を見つめ答えてくださいました。
その目は信頼に足る目でした。

琴美さんからのショートメールは、そんなほんの些細な欲求が少しずつ溜まっている時でした。
私は、一瞬にして些細だった欲求が弾け、ときめいたのです。

琴美さんと約束してから、数日、いえ、前日も当日すらも夫に琴美さんとのことを話すべきか悩みました。
でも結局言えませんでした。
それが今の幸せの時間を壊すようなことになったらと思うと、どうしても正直に言い出せなかったのです。

当日、私は女性同士で会うと言うのに、いつにも増してお洒落していました。
って一番高い服を選んでしまったのですが・・・。
なんか、ウキウキしてしまいまるで結婚式の二次会にでも参加するような装いになってしまいました。

いつもの駅の東口改札で琴美さんと待ち合わせました。
琴美さんも、すっごくお洒落して来てたので、私と思考回路が一緒な気がしてホッとしました。

琴美『ねぇ、ちょっとランチにしては高いかもだけど、素敵なレストラン調べといたの。行ってみない?』

「いくいく!ラーメンって感じじゃないしね。二人ともこの恰好・・・。えへへ。」

琴美『あは。ラーメンも魅力的!今度からラーメンにしよう!正直、高いランチ厳しいしね。
でも、今日は、直美と初デートだからお祝!あ、呼び捨てでいいよね。もう恋人?同士だし・・・』

「あはは。女同士の恋人?かなぁ・・・もちろん呼び捨てしてくれていいよ。」

琴美さんがチョイスしてくれたレストランは、フレンチイタリアンのレストランでした。
とっても雰囲気のいいレストランです。

琴美『お酒・・・のんじゃおっか・・・。やっぱり緊張しちゃうじゃない。』

「うふふ・・・そうね。私も実はバクバクなの・・・。飲もう!」

私と琴美さんは、白ワインの一番安いのをお願いしました。実際、味なんて分かんないのです。
ランチコースの一番安いのを注文して、乾杯しました。
こういう金銭感覚が合うのもすごく大事なことかもしれません。
これで当たり前のように高いワインを頼んで、お高めのコースを頼まれたら・・・。
もちろん、文句は言えません。でもお付き合いは続けられないと思います。

何だかドキドキソワソワしてしまいお酒が二人とも進んでしまいました。(挿絵
もともとお酒に弱い私は、すぐに酔ってしまいました。
お酒の力を借りて、勢いで私の心の迷いを正直に琴美さんにお話しました。
琴美さんはにこやかに私だって同じと悪びれもなく答えるのです。

琴美『私も旦那に内緒で今ここに来てるの。たまには旦那のいないところでエッチしたいしね。』

「それって・・・裏切ってない?」

琴美『う〜ん。ちょっと違うかなぁ。やっぱり自由が欲しいっていうのかなぁ・・・。正直弾けたいのかなぁ。』

「やっぱりそれって裏切りなんだと思うけど・・・」

琴美『裏切ってないわ。絶対、浮気はしない。だって、旦那のことは本気で愛してるし絶対に失いたくないの。
けど、たまにはつまみ食いしたいじゃない。』

「本気で愛してるからこそ、やっぱり裏切れないじゃない・・・」

琴美『直美もわかるかなぁ。注目されたいって。夫がいないところで私個人として見られたいって。』

「う〜ん。なんとなくは・・・。例えばモデルのように自分だけを見つめられて撮影されたり?」

琴美『そう、そうよ。撮影されていると気持ちよくなるでしょ?
もちろん夫に撮影されるのも大好きよ。でもそれだと夫の視線でしか羽ばたけないのよ。
籠の中の鳥って感じなのかなぁ・・・。
籠の中の鳥は、籠を出たいけど、もし出たら生きていけなくなるでしょう?
餌の取り方だって知らないし、野生にはなれない。飛び出しても結局籠に戻るしかないの。
私もそう・・・。籠の中でしか生きられないし、それが一番の幸せなのよ。
でも、大空に一瞬でもいいから羽ばたきたいじゃない。
色んな違った世界を見たいのよ・・・。違う目線も欲しいって思っちゃうのよ。』

「そうねぇ・・・大空かぁ・・・。でもやっぱり夫に対して後ろめたい気もするわ。」

琴美『うん・・・それは浮気心があるからじゃない?この人、少し好きかもとか・・・
初めて直美と会った時の・・・えっと、大ちゃん?好きなんでしょ?目がそう言ってたわ・・・。
だから正直、SAKURAで直美と再会した時にパートナーが違う人でびっくりしたんだよねぇ・・・。
全然、大ちゃんさんとタイプの違う男性だったしねぇ。
ご主人だって聞いてピンと来たのよ。だからあの目だったのかって・・・。』

「そ、そうだけど・・・。でもそういう気持ちがないとできないじゃない。特にエッチって・・・」

琴美『そこが問題なのよ。私は、浮気とか不倫とかは絶対にしたくないの。
でも、快楽は得たいのよ。身体が欲するの。だからその場だけで性処理したいっていうのかなぁ・・・。
快楽だけ得られたらいいの。めんどくさい人間関係は欲しくないの・・・
結局、人間って独占欲じゃない。エッチしたら連絡先教えてとか、次回はいつデートとか・・・
それって全部、ただ自分が相手を独占したいだけの独りよがりの愛じゃない。
そういうのをぜ〜んぶ取っ払いたいのよ。』

「そんな都合よくいかないわよ〜。やっぱりどうしたって相手のこと思うし考えるじゃない。」

琴美『そうねぇ。普通の出会いではありえないわ。だからSAKURAなの。これ私の結論。
SAKURAならまったくあと腐れないじゃない。その日、その場だけで済むもん。
それに時間差で他の参加者さんと重ならない様に退出させてくれるでしょ?
そういう気配ってすごく嬉しくない?その場だけで済むようにしてくれてる感じ。
連絡先を知ってるのはマスターだけだわ。あの人はぜ〜んぶ飲み込んでくれると思わない?』

「そう・・・そうかもしれないけど・・・」

確かにそうでした。
今までいつも私がぐずだから他のカップルさんとかと退出がぶつからない程度に思っていました。
一度も他の参加者さんと退出が重なることがなかったのです。

琴美『マスターはもう何百人・・・もっとかもしれないけど、女を中から見てるのよ。
うわべじゃない、人間と言う動物の雌の根幹を見てるの・・・。
だから目の前で私たちが嬌声を張り上げて淫らな恰好してても平然としていられるのよ。
普通の男性だったら、絶対、そうはいかないじゃない。
マスターは、周りがどんなに狂乱していても冷静なのよ。
いっつもヘラヘラして下らない話ばかりしてるけど、心はいつも冷静なんだと感じるの。
一瞬ふっと冷たい目をするの・・・。たまにドキッとしちゃう。
そんなマスターだから本当に全て飲み込んでくれるのよ。』

「そうねぇ・・・それがあの人の魅力なのかもねぇ・・・目の前にあるのに絶対に手に入らないもの。
別にカッコいいわけじゃないし、メタボだし、ただのおじさんなんだけどねぇ。」

琴美『あれ?マスターに気があるの?』

「違うわよ。でも、たま〜にだけど、参加者が少ないと無料招待とかあるみたいじゃない?
そういう時のマスターの弾けっぷりを参加した人から聞くとなんかモヤモヤしちゃうんだよねぇ・・・。
好きとかじゃないのに嫉妬してるみたいな。だってマスターが全裸になったとか聞いちゃうとねぇ・・・。
突然、当日に無料にしますみたいなことニュースで流すみたいだから、絶対、都合つかないし。」

琴美『あはは。マスター上手いよねぇ。そういうハプニング作るの。そこがまたSAKURAの魅力かもね。
全てを飲み込んでくれるところ・・・そんなところであり得ないハプニング・・・上手いなぁ・・・』

「そうなのよ。いつもお道化てるけど、冷静で・・・入り込みやすそうで入れない・・・
そういうところをみんな信頼しているのかなぁ・・・。SAKURAだったら弾けられるみたいな・・・」

琴美『そうねぇ・・・私の結論は、SAKURA以外で出会ったらダメってことかなぁ。
ネットとかでセフレ見つけてもだめなの。
それってメイクラブってよくいうじゃない?でもラブなんだよねぇ・・・
結局一夜限りでもラブじゃだめなのよ。
ラブは、旦那しか生まれないの。そうしたいのに相手にグイグイ来られたら本当に面倒じゃない。』

「うふふ・・・なんか哲学的・・・」

琴美『哲学かもねぇ・・・。極論だけど幾ら愛がないって言っても売春とかは絶対嫌だしねぇ。
自分のことをお金で査定されたくないのよ。私はお金では買えないわ。』

「うん・・・それ分る。お金幾ら積まれてもエッチはしたくないわ・・・。
それならよっぽど強姦とか痴漢の方がいいかも・・・。だって相手は破滅が掛かってるのよ。
そこまで人生を掛けてでも私を犯したいって、すごいじゃない。」

琴美『あはは。分るじゃない。直美だって本音は、身体が欲するでしょう?強姦されたいでしょう?
女にだって性欲はあるわ。男だけの特権じゃないのよ。
女はいつも控えめ・・・。そう教育されて来たからその固定観念から抜け出せないのよ。
でもそんな常識誰が作ったのかしら。
法律だって常識だってそうだけど、結局、今の社会に都合がいいように作られたものじゃない。
もちろん人を傷つけたり、物を盗んだり、騙したりは絶対にダメなことよ。
人間同士敬うってすごく大事なことだと思うしね。
でも倫理観って、日本が負けた戦後にアメリカの考えから作られたものばかりだと思うのよ。
アメリカっていうか、キリスト教かなぁ・・・。
結局、誰にも歯向かわない無気力人間を作るために政治的に作られた現代だけの倫理だと思うのよ。
でもみんな願望持ってるでしょ?作られた倫理観が邪魔して言えないだけ。
愛ではない快楽。淫欲っていうのかなぁ。絶対、女だってみんな持ってるって思うのよ。』

「うん・・・ある。願望っていうのか快楽を身体が欲するっていうのかなぁ・・・ある・・・」

琴美『でしょ!そういうのぜ〜んぶ引き受けて秘密も守ってくれるのがSAKURAだと思わない?
旨い答えになってないかもだけど。それが私の結論よ。』

「琴美さんって色々冷静に考えてるんだね・・・」

琴美『ぜんぜ〜ん。これ直美に出会ってから思ったのよ。
それまで一人でSAKURAなんて絶対ありえないって思ってたから。』

「そりゃそうよねぇ・・・。一人で行く勇気はないわぁ。確かに・・・。」

琴美『直美に会って身体を重ねているうちに、直美とだったら二人でSAKURAに行けるって思ったの。
そう思ったら、私が気付かないうちにモヤモヤと求めていたことがクリアになったのよ・・・。』

「そうかぁ・・・私も同じかも。琴美さんからショートメール貰ってときめいたの。
琴美さんとこうやって話すまで何でときめいたのかぼや〜っとしてたけど、何となく答えが出たかも。」

琴美『あはは。同類だと思った。キスしたいね。直美といっぱいキスしたくてたまらない。』

「うん・・・あとでいっぱいちゅ〜しよ。私も琴美さんとキスしたいよ・・・」

琴美『さんはやめて・・・。これでも一回り以上は年下だよ。呼び捨てにしてね。』

「あはは。分かってたの?年下って。あはは。本当に分かってたの?あはは・・・ことみ!」

何だか目からうろこの気分というのでしょうか。
私は36歳です。二十歳そこそこの目の前にいる女の子に私の答えを教えてもらったように思いました。

私は、琴美さんの言葉に自分への言い訳が整ったのです。
籠の中の鳥は、籠の中が一番幸せ・・・でもほんの一瞬、大空に羽ばたきたい。
だから腰に縄を付けて、ほんのちょっとだけ籠から飛び出してすぐに戻ればいいんだと納得したのです。
その腰縄がSAKURAさんなんだと思ったのです。
何だか同士というのか、共感しあえる無二の親友を得たそんな気分でした。
私は、その後、昼のパーティがある度に琴美さんとSAKURAさんへ出向き、夫とでは得られない快楽を貪りました。
それが、私にとてもバランスのよい幸せという日常を、いえ、家族にもたらしたのです。(挿絵


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